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Extremely Loud & Incredibly Close
     ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

アメリカ (2011)

アカデミー賞の作品賞候補にもなったが、IMDbは6.9と意外と低く、RottenTomatoesに至っては46%と悪評価。その理由は、9.11テロに敏感なアメリカのニューヨークを中心とする視聴者と批評家に「適切ではない」と判断されたため。しかし、公平に見て映画は原作よりよく出来ていると思うし、9.11テロの犠牲者に敬意を払って描いている。主演のトマス・ホーン(Thomas Horn)は、フェニックス映画批評家協会から2部門、アメリカ放送映画批評家協会から1部門を授賞。

2011年に起きた同時多発テロ「9.11」は、アメリカにとっての悪夢である。その映画化は難しい。2006年製作の『ワールド・トレード・センター(World Trade Center)』や『ユナイテッド93(United 93)』はテロに立ち向かう勇気を描いたため嫌われなかったが、倒壊したビルの犠牲者の心という「触れるにはまだ早い」部分を直視したこの映画は、イギリス人の監督だから作りえたであろうし、評価も分かれているのであろう。映画は、最初の1/3は、時間的に相前後しながら、9.11で父(Tom Hanks)を失ったオスカーを追っていく。楽しかった父との擬似探検、9.11当日の様々な出来事、惨事後始めて父のクローゼットに入って発見する鍵などが、断片的に紹介される(「あらすじ」は、混乱するので時間軸に沿って再構成)。映画の主要部分は、発見した鍵が、亡き父との唯一の接点となると考えたオスカーによる、持ち主探しの物語。途中で、祖母のアパートに住む謎の同居人の老人(Max von Sydow)が加わるが、見つかる当てのないことを悟り、オスカーにとってテロ以来内面の軛(くびき)であった父からの電話を留守録した音声を、自分の祖父だと確信した老人に聴かせようとする。しかし、6度目の録音だけはどうしても聞かせられない。そして新たな展開。父が残した電話番号から、鍵の真の持ち主に辿り着く。あれほど心待ちにしていた鍵の謎が解けた時にオスカーが受ける衝撃。それが、6度目の録音に対する罪の思いを逆に解放する。最後には、自分の行脚が母(Sandra Bullock)によって、暖かく見守られていたことが分かり、オスカーは「Extremely Loud & Incredibly Close」と題した日記を母に贈呈する。

オスカーを演じるトマス・ホーン(Thomas Horn)は特異な子役である。映画どころか演技をしたこともないトマスを、オスカー俳優の父母に対抗できる主役に配したのは、クイズ番組で優勝して31800ドルの賞金を獲得した彼に惚れ込んだプロデューサーだというのは有名な話。『リトル・ダンサー(Billy Elliot)』や『ビリー・エリオット/ミュージカルライブ(Billy Elliot the Musical Live)』の監督スティヴン・ダルドリー(Stephen Daldry)は、度胸と頭脳明晰さを兼ね備えたトマスに対し、子役には絶対させないスタニスラフスキー・システムのメソッド演技をさせた。俳優自身に、自分の感覚・感情を呼び覚まして、的確な表現で演技をさせるプロの方法だ。その結果は、多くの批評家からも「感受性が鋭く、深い感情表現が見られる」と高く評価されている。トマスは結局、俳優の道は選ばなかった。その秀才ぶりは、高校を卒業する2015年2月に、アメリカで最も有名で名誉ある大学奨学金(National Merit)を獲得したことからも分かる。もう17才だが、優しくく品のいい顔立ちは変わっていない。


あらすじ

オスカーと父は、とても仲の良いコンビだった。アスペルガー症候群の気があり、閉じこもりがちなオスカーに対し、想像上の探検や、ニューヨークの失われた第6区を探すというミッションを与え、元気付けている。母とは、どちらかと言えば疎遠。
  

そんな楽しい関係が、9.11テロで断ち切られる。突然、授業が打ち切られ帰宅するオスカー。家に帰ると、留守録には幾つものメッセージが。そこから父の声が流れてくる。何事かとTVをつけると、父が電話をかけているビルが崩壊するのが見えた。呆然として床に崩れ落ちるオスカー。祖母がかけつけると、ベッドの下に入って出て来ない。「お母さんはすぐ帰るわ」「それまでずっとそこにいるの?」。「もちろん」。
  

帰ってきた母から、「お父さんから電話は?」「留守録には何かなかった?」と訊かれて否定するオスカー。ここでついた嘘が、その後のオスカーにとっての軛(くびき)となる。母に録音を聞かせまいと、夜、パジャマにジャンバーをはおって近くの家電店へ走るオスカー。全く同じ形の電話機を買ってきて、録音の入った方を自分の部屋に隠してしまう。以後、時々、録音を聞いては懐かしみ、あるいは、秘密にした自分を責めるのだった。
  

半年以上経って、オスカーは、「あの日」以来そのままにしてある父の部屋に忍び込む。クローゼットで父の香りを懐かしんでいて、ポケットから新聞の切り抜きを発見。記事の「探すのをやめない(notstop looking)」のところに赤く丸が打ってあった。この言葉は、オスカーにとって遺言とも受け取れた。そして、棚の一番上にあるカメラを取ろうとした時、何かが落ちてきて割れた。中に入っていた山吹色の封筒の中から鍵が出てきた。そして、封筒には「Black」の文字が。オスカーは、ブラックという人物を探し出し、鍵の意味を知るのが自分の使命だと決めてかかる。
  

オスカーは、電話帳から216ヶ所、472人のブラックを見つけ、それを地図にプロットする。そして、慎重に持ち物を確認し、思い切って出発する。ここで独白が入る。「何が起きるか、予想もつかなかった」「胃が痛く、涙が止まらなかったけど、何があろうとやめまいと心に決めた」。そして最初のブラック宅。出てきたのは黒人女性のアビーだった。それは彼女にとって最悪のタイミングだったが、親切に中に入れてくれた。しかし、鍵のことは知らなかった。
  

ブラックさん探しがなかなか進まない中、人が変わったみたいにボーっとしている母に向かい、オスカーの不満が爆発する。母のすべてが気に入らない。父の葬儀のやり方もよくなかったとも。だいたい、テロのあった日、なぜ家にいて電話に出なかったのだ? この非難は、実はその時家にいて電話に出なかった自分自身の後ろめたさの裏返しでもあった。そして最後は、「ビルにいたのが、パパじゃなくママだったら良かったのに」と、最悪の発言。
  

ある夜、向かいにある祖母のアパートの窓から懐中電灯の光が見えた。不審に思ったオスカーが駆けつけると、祖母は留守で、かねてから「近寄るな」と聞いていた間借り人がいた。声をかけるオスカー。すると、意外なことに、その老人は口がきけず、紙に手書きするか、左手の「YES」か右手の「NO」で返事をするのだ。この老人に対し、オスカーは、これまでのブラック探しの苦労を思い切りぶつける。そして、「苦しいから、すごく悪いこともしちゃう」と言って、アザだらけのお腹を見せる。それを見た老人は、「一緒に探して欲しい?」と書いた紙を…
  

老人と一緒に廻っているうち、オスカーはだんだんと老人が好きになる。それは、その仕草が父に似ていたからだ。そして、きっと祖父に違いないと思うようになる。最後に寄った鍵屋で、あまりの鍵の多さに落胆したオスカーは、老人を問い詰める。「鍵穴は見つかると思う?」。「NO」。「僕も確信が…」。そして、「祖父」を自分のアパートに連れて行く。あるものを見せるために。
  

オスカーが見せたかったのは、隠しておいた電話だった。「あの日」、学校から家に帰るまでに留守録が5つ入っていたと話し、次々と再生していく。そして、最後に6の数字が出たところで、再生のボタンを押そうとするが、指が止まり、目からは涙が頬をつたう。緊迫するシーンだ。
  
  

オスカーは、夜、「notstop looking」の切り抜きを見ていて、その裏の電話番号にも赤丸がついているのに気付く。あわてて電話すると、そこは最初に訪れたアビーの家だった。駆けつけたオスカーを待っていたアビーは、車に乗せて別れた夫の職場に連れて行く。そして、記事にあった遺品セールを開いたのは元・夫で、鍵のことを知っているかもしれないと話す。期待してオフィスを訪ねたオスカーだったが、結局鍵は、男の父が死別時に渡そうとしたもので、オスカーの父とは全く無関係と分かり、がっくりする。しかし悲しく去ろうとした時、オスカーは思い立って、「誰にも黙ってた話、していい?」と語り始める。9.11の日、家に帰ったら5つ留守録が入っていて、全部聴いたところで電話が鳴り出し、留守録になった。そしたら、「いるのか?」と何度も何度も父がくり返す。「僕と話したかったのに、僕は出なかった」「怖くて、できなかった」。そして、語り終えると最後に、「許してくれる?」。「許す? 何を? 電話に出なかったこと?」。「今まで黙っていたこと」。父にとった行動を恥じて、それを誰にも言えなかったことが、これまでオスカーを苦しめていたことが分かる瞬間である。繊細な心の持ち主の、心の傷が涙を誘う。
  

心の楔は外れたが、これまで頑張ってきたブラック探しが全くの徒労に終わってしまい、目的意識が消失したことで、自室に立てこもり地図を切り裂いて号泣するオスカー。そんなオスカーを、母は、優しく抱き、実は彼の捜査活動は知っていて、行く先々にも事前に連絡しておいたのだと打ち明ける。がっかりすると同時に、母の愛に感激するオスカー。そしてオスカーは、大事に作ってきたブラック探査の日記帳を母にプレゼントする。
  

心の整理のついたオスカーは、これまで訪れたブラックさん全員に手紙をしたためる。「覚えてますか。オスカー・シェルです」で始まり、「望んでも、パパはもう戻りません」「パパなしでは生きられないと思ったけど、今はもうできます」「パパはきっと僕を誇りに思ってくれる。それこそ僕の望んでいたことです」で終わる。ここでハッと気付いたオスカーは公園のブランコに駆けつける。父のヒントに思い当たったのだ。ブランコの台の裏に隠されたメッセージを発見。これこそ、父が求めていた探査の旅を終息させるご褒美だ。今まで怖くて近寄れなかったブランコを、オスカーが晴れ晴れと漕ぐシーンで映画は終わる。
  

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